なぜ無菌試験では「NAT(遺伝子検査)」と「菌培養」を組み合わせるのか?

再生医療等安全性確保法に基づき、特定細胞加工物の安全性を担保する細胞培養加工施設(CPC)。

CPCにおける品質管理において、最も重要であり、かつ高い精度が求められるプロセスの一つが「出荷試験(無菌試験やマイコプラズマ否定試験)」です。

近年、この無菌試験において、従来の「菌培養法」に加えて「NAT(遺伝子増幅検査)」を導入するケースが増えており、時にはこの2つを組み合わせて検査が行われています。

どちらも「細胞加工物に潜む微量な菌を見つける検査」ですが、なぜCPCにおいてわざわざ2つの検査を同時に行う必要があるのでしょうか。それぞれの特徴と、組み合わせる本当の理由を分かりやすく解説します。

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目次

そもそも、2つの検査は何が違うのか?

菌培養法とNATは、どちらも「少なすぎて見つからない原因菌やウイルスを、判定できる量まで増やして見つける」という目的は同じです。しかし、その「増やし方」と「判定までのスピード」に決定的な違いがあります。

菌培養法(従来の検査)

菌を「生き物」として育てる方法です。

例えるなら、1匹の虫が卵を産んで、何万匹もの大群に育つのをじっと待つようなものです。そのため、成長が遅い低栄養細菌や真菌、マイコプラズマなどでは、結果が出るまでに「約2週間」もの長い時間がかかります。

また、検出を成功させるには、ある程度まとまった菌の塊(目安として約100個分から)が必要です。

NAT(遺伝子増幅検査)

菌そのものを育てるのではなく、菌が持っている「遺伝子(DNAやRNA)」だけを抜き出し、装置を使って人工的に倍々で高速コピーする方法です。

細胞を育てるよりもコピーする方が圧倒的に早いため、わずか「1〜3時間」という短時間で結果が分かります。

さらに、検出感度が非常に高く、数個の遺伝子(数copies)が存在するだけで、一瞬で何億倍にも増やして見つけることができます。

再生医療の現場で超高速・高感度のNATだけで十分ではない理由

これだけ聞くと、「スピードも感度も圧倒的なNATだけで十分ではないか」と思われるかもしれません。特に、投与までのタイムリミットがある新鮮細胞(生細胞)を扱う再生医療において、1〜3時間で結果が出るNATは非常に魅力的です。

しかし、ここに「ウィンドウ期間」という大きな落とし穴が存在します。

ウィンドウ期間とは、実際には菌やウイルスが存在しているにもかかわらず、量が少なすぎるために検査で「陰性(菌はいない)」と判定されてしまう期間のことです。

例えば、100ミリリットルの細胞懸濁液(または培養上清)の中に、菌が「たった1個」しかいない超初期の状態をイメージしてください。検査(サンプリング)のために、この液から10ミリリットルだけを抜き取ったとします。このとき、確率的に「運悪くその1個を吸い込めず、空っぽの液を抜いてしまう」という現象が起こり得ます。

NATの場合

  • 偽陰性反応の可能性
    • NATそのものの検出感度(分子を検出する能力)は極めて高いのですが、検査に使うサンプルの「抽出・採取」の段階で菌が含まれていなければ、当然ながら検出できません。これを「サンプリングエラー(標本誤差)」と呼びます。
  • 死菌の検出(偽陽性反応の可能性)
    • NATは「菌が生きているか(生存・増殖能力があるか)」を見ているのではなく、「特定の遺伝子配列(DNA/RNA)が存在するか」だけを判定しています。
    • 製造工程で適切に滅菌・加熱処理がなされ、製品としては安全(生きた菌はゼロ)であっても、分解されきっていない遺伝子の破片(死骸)が残っているだけで「陽性」と判定されてしまいます。

菌培養法の場合

判定までに2週間という時間はかかりますが、ボトル全体(抜き取った液だけでなく元々の全体)を使ってじっくり菌を育てるアプローチが可能です。そのため、最初の吸い出しでかすりもしなかったような極微量の菌も、漏らさず捕まえて増殖させられ、確実な検査を行うことが可能です。

まとめ:CPCが2つを組み合わせた「ハイブリッド検査」

確実な安全性を求められるCPCにおいて、菌培養とNATが組み合わされる理由はここにあります。

  • NATが「超高速・超高感度」で、サンプリングされた液の中の菌を素早く捉える(スピードと感度を担当)
  • 菌培養法が「時間をかけて全体を育てる」ことで、サンプリング時のわずかな見落とし(ウィンドウ期間のリスク)をカバーする(確実性を担当)

NATの段階で検出された場合には、2週間を待つ前に培養された細胞加工物が汚染されてることが分かるから、すぐに再培養をできるが、菌培養法のみであれば2週間待たないと2週間の時間を無駄にすることになる

特に、細胞を長期間培養する再生医療では、培養初期に生じたごく微量な汚染(コンタミネーション)も見逃すわけにはいきません。

お互いの弱点を補い合うこの2つの目を持つことで、検査の見落としを極限までゼロに近づけ、患者様へ届ける細胞加工物の確実な安全性を担保しているのです。

この記事の執筆・監修
泉山 秀和
執筆
泉山 秀和
再生医療導入コンサルタント

PRP療法、幹細胞治療、免疫細胞療法など、全国約150件以上の申請サポートに携わり、医療機関様を支援。

  • 難しい案件ほど当センターの幅を広げるチャンスとして受託。
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  • 最短30日で提供計画作成~審査~受理~治療開始までサポートの経験あり。

魚住 利樹
記事監修
魚住 利樹
CPC設計・導入コンサルタント/培養士育成コンサルタント

細胞培養現場で管理(製造・衛生・品質)を長年経験した細胞加工の専門家が、法令に準拠したコンパクトかつ効率的なCPC(細胞培養加工施設)の新設・運営・管理を提案。

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